暗黒館、読了。
2004年 09月 29日
実際に買った方はもちろん、書店で眺めただけの方もすでにご存知でしょうが、膨大な分量です。最近のミステリの傾向なのでしょうか。でも長けりゃ良いってもんじゃないんだ!
むしろ長くするのは簡単なんです。労力は掛かるけど、技術的には短くまとめる方がずっと難しいんです。
不思議ですよね。活字離れと言われているのに、ミステリだけはどんどん長くなるというのは。つまりはもう新しい読者を獲得しなくていい、する必要ないと思っているってことですよね。これだけの分量を読んでくれるコアな読者だけで良い、と。
ま、そのスタンスはあながち間違いとは言えないですし、変に大衆受けしようとするよりも、ずっとマシですが。それは結果として、ファンしか読まないという事につながります。ミステリファン、あるいは作家やシリーズのファンということになるでしょうが、おおむねその作品に好意的な人たちだけが読むということですね。
果たしてそれが本当に作者のためになるのでしょうか? ある程度色々な範囲の読者の目にさらされてこそ、より良い作品が作り上げられるようになるのではないでしょうか?
私ももちろんこの先も綾辻氏の作品を読んでいくと思います。それでも新作を読むたびに、やっぱり『十角館』が一番良い、と思うのは私としてもつらいです。『十角館』に難がない訳じゃないですし、もっと素晴らしいものも書けるのではないかと思います。これからも期待しています。
以下はネタバレ。未読の方はご遠慮下さい。トリックについての言及もあります。そしてかなり酷評しておりますので、不快に思われる方はご覧にならない方が賢明です。…愛はあるんだけど(苦笑)。
重ねて念を押しますが、ネタバレですよ?
トリックについても語っていますよ?良いですね?
読んでしまってから、文句を言われても困りますよ?
それではどうぞ。
まずひとことで言わせてもらうなら、これは「館」シリーズではありません。正確には「番外編」あるいは「外伝」と位置づけされるべきものです。
じゃあ、なんで外伝がこれまでのシリーズを全部合わせたくらいに長いよ、とのツッコミもございましょうが、長くなっちゃったんでしょうねー、としか言いようが(苦笑)。
おそらく登場人物も必要ないものを削って、描写も意味のない物は削って、解説部分もくどいくらいの繰り返し描写を削っていけば、半分とまではいかなくても、2/3くらいにはなったんじゃないかな。
そもそも登場人物多すぎるし。何のために出てきたか分からない人がいっぱいいるし(いかにも殺されそうでありながら、死なない人という役割か)。
横溝正史ばりのおどろおどろしい要素を散りばめている割には、それが上手く使いこなせなかったのも残念。せむし男・美少女のシャム双生児・難病に侵された少年・無気味な墓守・妖しげな儀式・黒一色の館、などなど。こうして眺めているだけでも面白そうな気がするのにねー。
せめて「館」シリーズと銘打つからには、外見的な無気味さ以上に館らしいトリックも欲しかったですが、隠し扉とかどんでん返しとか、当たり前すぎて面白くないです。まぁ、からくり館を取り上げる段階で、密室トリックが使えなくなるから、その意欲だけは買いますが(苦笑)。
トリックに関しては、視点がアンフェア。以上。
…という訳には行かないか。一人称小説である以上、視点が固定されるのは当然で、その移動があるのは面白い試みだと言えなくもないですが(斬新ではないですが)、フェアじゃないんだなぁ。
『神の視点』というか俯瞰の視点だというのは分かります。でもその場合はあくまでも、視点となる人物が見ていない場所を見せるためのものであり、推理の材料にするためのものであるべきです(例えミスリードだとしても)。
でもそれがメイントリックになってしまうというのは…。ラストでそのことが明かされるのですが、私にはただ読者を混乱させ、せっかくストーリーに入り込めそうになっていた意識を現実に引き戻す役目しか果たしていないと思えます。そもそも必要があったかどうか。
それに、一人称小説である時点で、叙述トリックではないかという想像が付きます。だってアヤツジそんなトリックばっかりじゃない? 叙述トリックが好きで、それを極めたいというのでしたら、どうか新しい試みを。あの人が実はあの人で、あの人はこの人だった、というパターンはもう見飽きました。
その辺のメインになるトリックに早々に気が付いてしまうと、これだけの分量を読むのが、かなり辛くなってきます。それでもどうにか読み進めていたのは、例のアヤシゲな儀式のことがあったから。
あの場面は普通に考えれば、飲んだり食べたりしたものはアレなんじゃ…? と誰もが思うでしょう。でもそれを「はっはっは、何を誤解していたんだい? そんな筈ないだろう?」とさらっと別の解答を用意してくれるものだと思っていたんですよ。少なくともあんなに引っ張るんだから、相当に驚かされる答えなんだろうな、と。
でもまさか、そのままだとは…がっくり。予想を覆されてアッと驚くのがミステリー、予想通りのことが起こってもハラハラドキドキ、それはホラー。
それともこの作品はホラーだったのでしょうか。ああ、改めて見てみると、アオリにもあらすじ紹介にもどこにも「ミステリ」とか「推理」って言葉が入ってないですよ…。ただ『ミステリ作家・綾辻行人の全てがここに結実!』とあるので、誰もがミステリだと思いますがな。そうか、ホラーとして結実したのか(笑)。
とにかく色々なことに、理論的な説明がなされず終わり。探偵が最後に颯爽と事件を解決するミステリーが好きな私にはダメでした。もしかしたら最近のミステリはみんなこんな感じなのかなぁ。だとしたら、これだけの分量を読む時間で、古典を何冊も読んだ方がずっと良いなぁ…。
しかもご都合主義的な偶然の一致が多すぎます。前述しましたが、メイントリックには早くから気付いていたものの、まさかこんなに偶然が重なる訳はないから、やっぱり違うトリックなのかな。そう見せておいて、驚きの結末があるのかな、とずっと悩みながら読んでいた身としては切ないです。そりゃないだろうよ、という感じ。
まー、こんなに文句ばかり言うなら読まなきゃ良いのですが、ミステリだけは最後の一行まで読んでみないと、それが傑作になるか、駄作になるか分からないもんで。ある意味すごいギャンブルだな。
と言う訳で、ミステリとして楽しめたかと言ったら微妙でした。
ただ、強いて言うならば弦児と中也の関係が、なんだこりゃBLか?ってくらいにアヤシゲなので、その辺で萌えたくらいかな(苦笑)。
だってさ、弦児が有無を言わさず強引に、自分の『仲間』になる為の儀式に中也を参加させておきながら、その事を打ち明けて一言。『俺の事が嫌いかい、中也君。全てを聞いてしまって、嫌いになったかい』ですぜ?
そしてそれに対する中也の答えがまたスゴイ。『弦児さんの事は嫌いじゃありませんし、嫌いになりたいとも、嫌われたいとも思いません』ですよ!?どうですか。愛だね、愛(笑)。
惜しむらくは、どうして弦児がそこまで中也に執着するのか、今ひとつ分からなかった所かな。これはBLとかどうとかじゃなく、メイントリックにも関わってくるので、かなり重要なポイントだと思うのですが、分量多い割にその辺の描写がほとんどないので、単なる自己愛の裏返し?くらいだとしか。
どうせだったら、市朗とかいう訳の分からん通りすがりの少年の一人称を入れるくらいなら、もっと弦児と中也の過去の話や、二人のエピソードを入れたら、伝わりやすかったと思うのにね。実際、この話の鍵を握るのは弦児で、主役は中也なんですから。
傑作になりそうな要素をたくさん持っていたのに、どこかで間違っちゃったかな、という気がしないでもない作品でした。
by mgear | 2004-09-29 23:38 | 小説